ちはやふる189首感想---札よ消えないで

BE・LOVE2017年21号掲載


太一vs須藤戦の最終局面。最後に太一が手を伸ばした先、そこには儚く消えゆきそうになる「ちは」札があった。
今回の太一にとっての「ちは」札は、どういう存在であったのか。
それにはまず周防さんの消えゆく札について紐解く必要がある。


周防さんの消えゆく札



須藤さんと周防さんの練習シーン。11月7日と言っていることから、東大カルタで太一が練習を始める半年ほど前になるのだろう。
34巻で須藤さんと周防さんの関係の悪化が指摘されていたので、須藤さんは周防さんの嫌いなタイプと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。
周防さんが甲斐甲斐しく須藤さんの食事の面倒を見ていたり、「ふざけんな名人」「性格が悪い」などとお互いをディスるほど、実は仲が良かったのが非常に驚いた。

確かに須藤さんは「名人を倒したい」と言っていたが、「名人にカルタを辞めてほしい」とは一言も言っていなかった。
本当は名人にずっとカルタを続けてほしいと思っている。
だから名人が太一を気に入ってしまい、お互いにカルタの世界から消える運命へ向かっていることに対して、物凄く腹立たしい思いがあったと思う。(周防さんが太一を気に入る理由については、184首感想を参照。)

太一が来るまで、名人が須藤さんを気に入っていた理由は何か。
それは何度負けようとも戦いたいと思う、須藤さんの情熱が嬉しかったのもあるのではないか。
自分にはない情熱を、須藤さんは名人に与え続けていた。
カルタで繋がる須藤さんとの絆に、喜びを感じていた。

カルタの絆を切ることは、カルタで繋がる人との絆も情熱も断つことである。
周防さんは人の絆に飢えている。
それは飛行機のシーンでもよく表れている。
遠くを眺める物憂げな周防さんの表情は、会いたくても会えない長崎の兼子さんへの諦め切れぬ思いだろう。

カルタを辞めたい。
でも情熱が欲しい。人との絆が欲しい。
だから消えそうになるカルタについ手が出てしまう。
須藤さん、詩暢ちゃん、原田先生、そして新、みんな名人と戦いたがっている。
それが彼とカルタを繋ぐ、たった一本のか細い糸なのだと思う。


太一の消えゆく札



今回の太一もまた、周防さんと同じ立場として描かれている。
彼に見えていた「ちは」札は何だったのだろうか。

手を伸ばすんだ おれが 消えていかないで

彼が見ていたその先は、カルタをする人たちと自分との大切な絆と情熱ではないか。
「ちは」札は千早の恋心だけではない。情熱の源泉でもあるからだ(33巻)。

太一にカルタを続けてほしいと願っている、千早や原田先生、瑞沢の仲間たち。
太一と何度でも戦いたいと思う新。

その絆と情熱に繋がっていたいと、彼はようやく自ら手を差し出したのではないだろうか
消えてなくなりそうなその糸を、太一はギリギリのところで手繰り寄せることが出来た。
そしてそれはまた、カルタを続けるという太一の意志でもあったのだ。

(しかし消えゆく札を取るという表現はさすが…!
わたしが186首感想で予想していた「ちは」札の〇〇〇〇〇は、「読まれない」だった。
新では当たったけど太一では外れた…この表現力は末次先生ならではと思う。)

かるたが大事な人間が倒さないと 続けてくれないじゃん?あの人

「名人カルタを絶対に辞めんな」という須藤さんの強い思い。
太一が変わったのは、カルタを愛してやまないこの思いが太一の心を動かしたのもあるだろう。


「ちは」札攻防戦



さて20巻から続いた男たちの「ちは」札攻防戦は、これで一応の一区切りがついた。
わたしが感じた結論はこうである。

自陣にある「ちは」札をどうすれば味方にでき、試合に勝つことができるか。
新は「ちは」札を攻めるためにも手放す勇気が必要だった。

太一は「ちは」札の恋心を切り離して情熱の源泉とし、更にカルタを続けるという意思を見せることで、それを味方にすることが出来た。



何が何やらごちゃごちゃ言って分かりにくいが(特に太一は説明しづらい)、ぶっちゃけ簡単に言えば、

「二人とも千早がそばにいても試合に恋愛感情は持ち込むなよ、何も考えず真剣に戦え!」

という神(作者)からのメッセージなのではないかと思う。
そしてそれは恐らく、二人が出会うであろう東西戦を見据えてのことなのだろうと思う。

これは憶測だけれども、17巻までとそれ以降では、「ちは」札の設定が大きく変わった気がする。
20巻から今までの「ちは」札を巡る戦いは、太一と新の「対」の姿が非常に巧みに描かれている。
この辺り、36巻の考察で詳しく検証したいと思っている。

そして36巻は特装版クリアファイル付き…!もちろん買います!!


あと5枚



千早の「あと5枚」は何を意味するのだろうか。
以前の話を読み返しても気になるようなシーンを見つけることができなかった。
「おおえやま」でかなちゃんを、「つくばねの」で筑波君を指していることから、この5枚は団体戦の5人を表しているのだろうか。
そういえば東日本予選が始まってから、千早は観覧席にいる瑞沢メンバーに全く気が付いていなかった。
田丸さんや肉まん君は違う会だし、ずっと一人で戦っていた気になっていたのかもしれない。
ようやく仲間の応援の力に気が付いたのか。
となると、最後に取る札はもちろん…?だって取れなかったら本人可哀想だし…?
(最後のシーンの「たち」は「たれ」の間違いなのかな、多分。)

ちはやふる中学生編は元気いっぱいでした!次回感想書きます。

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