ちはやふる中学生編7首感想---風になびく

BE・LOVE 2018年6号掲載


須藤に負けた悔しさをバネに更なる強さを求め、新は祖父の元でカルタの練習に励む。そんな折二人に届いたのは突然の佐藤先生の訃報。ショックのあまり、祖父は二度目の脳溢血で倒れてしまう。

今回中学生編の新の感想をどうしても書きたくて、こちらを先にアップさせていただきました。理由は最後にあります。
本編の感想を期待されていた方はごめんなさい。本編感想は来週の予定です。
一言だけ先に述べますと、最後の審判の無言吹き出しは、新ではなく太一に対して何か思うことがあるように見えます。
結川さんは勝利への真摯な態度が見えたから審判が応援した。
しかし取るべき札を簡単に諦めてしまった太一には、土壇場で本気で勝ちに行く姿勢が見えなかった。自ら勝ちを手放す人を、果たして応援するでしょうか。
審判は太一の取りには気づいていたけど、負けは致し方なしとあえて口を挟まなかったのではないかと思っています。詳しくは次回。



祖父と佐藤先生



ライバル



チビスドーとの戦いの後、富士を眺めながら語り合う佐藤先生と新。
佐藤先生にとって、祖父との交流は本当にかけがえのないものであったらしい。長年の友人を思い出す彼の表情は優しい思いに満ち溢れていた。

綿谷は私にいろんなことを教えてくれたよ 歌の意味はもちろん 互いに切磋琢磨して名人を目指す時間が どんなに楽しいか いまでもこんなにかるたを好きでいられるのは 綿谷のおかげだ

漫画では描かれていないが、実は佐藤先生は若い頃カルタのために家族や人生を壊してしまった時期があった。
カルタを選び他をすべて失ってしまった、この選択は果たして正しかったのか…カルタとは自分にとって何なのか、相当苦悩し葛藤していたことだろう。
そんな佐藤先生に寄り添いカルタの楽しさや試合をする喜びを常に伝え続けれてくれたのは、親友である新の祖父の存在である。
佐藤先生にとって祖父は自分を支えてくれた恩人であり、「名人」という目標に向かうことを改めて気付かせてくれた大切な仲間でもある。

先に名人になったのは佐藤先生であり、彼が永世名人になるまで祖父はその座に就くことが出来なかった。
もし新が祖父に対して「佐藤先生は邪魔やったか?」と聞いたら、祖父はどう答えるであろうか。
恐らく笑って誤魔化すが否定はしないんじゃないだろうか。
名人位に長らく居座り続ける佐藤先生に対し、いつまでたっても自分は準名人のまま。ライバルを邪魔と思わないはずがない。
しかし祖父は最後に必ずこう付け加えると思う。「あいつは本当に強かったんや。うらでもなかなか勝てん、きつい(すごい)奴やったんやざ。でももう絶対に負けん。」

同じ一つの椅子を争うライバルなら、誰だって相手を疎ましく思うことはあるんじゃないだろうか。人間それが普通だ。
しかし二人はたとえそういう思いがあったとしても、お互いの存在を決して否定しない。相手の強さがあるから、自分はそれ以上の強さを求める。相手を尊敬し、信頼という絆で固く結ばれている、対等な立場でのライバルであった。


プライドと弱さ



いつかまた必ず戦うと誓い、支えあう存在であった佐藤先生の突然の死は、祖父の容態をみるみる悪化させてしまった。
病室でじっと天井を見て寝ているだけの祖父を、新はどうしても受け入れることが出来ない。
祖父の強さは新の支柱である。自分が強くあるためには祖父は絶対に強い存在でなければいけない。
祖父の病気=自分の弱さを認めるということは、自分のプライドを深く傷つけることでもある。
37巻の大学入試の際、新が祖父を直視できなかったと言っていたのは恐らくこれが原因だと思う。
中学生の新には弱い祖父をどうしても許すことができなかった。この時の彼は、精神も未熟で心を強く保つにはまだ若すぎたのだ。


生き甲斐



更に新にとって辛かったのは、祖父が自分に全く反応しなかったことである。
祖父が求めていたのはかわいい孫ではなく旧友との懐かしい思い出であった。
それは生きるという意思を失いつつあることを予感させた。

一度目の脳溢血では祖父の回復は早かったので、それほど深刻には受け止めていなかった。いつかまた治るだろうという楽観的な希望もあった。
しかし佐藤先生の訃報により、「死」という存在が一気に現実的になり、新はとてつもない焦りを感じ始めてしまう。
佐藤先生は、たったひと月前には元気に生きていた。なのにもう今はいない。昨日生きていたからといって今日はどうなるか分からない。明日はもう会えないかもしれない。

はよA級に…A級んなったら じいちゃんきっと戻ってくる…!おれがじいちゃんの生き甲斐になるんや

じいちゃんが佐藤先生ではなく自分を見てくれるにはどうしたらいいのか。
もっと強くなって、A級になって喜んでもらうしか方法がない。
自分が生き甲斐になるのだ。自分が強くなれば、きっとじいちゃんはこちら側へ戻ってきてくれる。

新には時間がなかった。彼の希望への道は、暗く細く次第に追い込まれていくことになる。


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私事ではありますが、私自身7年前に介護の末祖母を亡くしています。実家が遠方でまだ子供が幼かったこともあり、祖母の最期を看取ることができませんでした。あの時どうにかできなかったのだろうかと悔やむこともあります。今回の強く純粋な新の涙を見て心救われたような気がします。7回忌の前に久しぶりに祖母の優しい笑顔を思い出し、涙が溢れて止まりませんでした。ラストは分かっていても、やっぱり新頑張れって思うような、心揺さぶられるシーンだと思いました。