ちはやふる197首感想---雪の追憶

BE・LOVE 2018年7号掲載


東西挑戦者決定戦、休憩時間。新の気持ちの切り替えは果たして…?




一回戦最後の疑惑の取りを必要以上に思い悩んでしまうのは、新らしいと言えば新らしいところ。
審判に指示を仰ぐべきは太一の方であるし、単なる嫌がらせで揉めたのならいざ知らず、きわどい取りであれば自分のものと主張するのも問題はない。
しかし新お得意のポジティブシンキングはすっかりと息をひそめ、悪い方へばかり考えてしまうあたり、一回戦で受けた精神的ダメージは相当応えたようだ。
このままいくと二回戦もあわやというところであったが、それを引き戻してくれたのは千早の笑顔と舞降る雪であった。


初恋



多くの福井県民にとっては今年の豪雪でこれ以上の雪はもうこりごりといったところだけれども、新にとっての雪は特別なもの。
新の心を動かしたものは何であったのかはっきりとは描かれていないが、千早とちは札を見つめる彼の表情からなんとなくだが察することは出来る。
彼の心に思い起こされる情景は、小学生時代に三人で雪合戦をした懐かしい思い出だろう。
(原田先生も雪を見て三人の雪遊びシーンを思い出しているので、これは間違いないと思う。)

新 新や


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幼馴染でもない、たった数か月しか知り得てない女の子に自分を「新」と呼んでもらったこと。
ずっと一緒にカルタしようと手を差し出してもらったこと。
寒い雪の中心温まるような屈託のない満面の笑顔を見せてくれたこと。
この瞬間から、新にとっての千早は特別な存在となった。

そしてそんな二人に雪玉を投げつけて間に割り入ってくるのは、いつも千早の傍にいる太一。

太一が疎ましくて、羨ましくて…おれだって傍にいたいのに…太一なんて邪魔でキライや。

三人で一緒にいたいという気持ちの裏にはこの気持ちがずっと隠れていた。新はようやく恋で嫉妬する自分を認めたわけである。


自尊心とプライド



新が太一に感じる自尊心のブレは、他者と自分を比較する「プライド」という形で表れてくる。

self-esteem(自尊心)は自分の存在を欠点を含めて尊いというものに感じられることに対し、pride(プライド)は他者評価により自分に劣等感を感じ、自分の欠点を許せず責めてしまうものである。


新の太一に対する劣等感は恋愛に由来するものだけれども、その劣等感を受け入れることが出来ないため(もしくは自覚しようとしなかったため)それがばれないように強くふるまったり見下してしまったりする。
自分は完璧になどなれるはずがないのに、そうなれない自分がたまらなく不安であり許せないので、他者から欠点を指摘されると猛烈な恐怖と怒りを感じる。

…ぶっちゃけもう具体的に言ってしまうと、太一が千早に関することをちらつかせることで、「お前なんかどうせ千早に指一本も触れられないだろう。俺と同じようにお前も苦しめザマーミロ、バーカバーカ!」という新への痛烈なアピールになったわけである。
新は千早が好きなくせに彼女へのコミュニケーションがすこぶる苦手である。電話もメールもほとんどしない、もしくはできない。告白の返事を聞く勇気もあと一歩がでない。ただただ千早を信じているだけだ。
押しが弱いと自覚している。彼女がいると弱くなる。それがダメなことも分かっている。それは心のどこかで気にしていたことであり図星でもあったのだと思う。


おれも…ええんや きらいと思うてええんや 邪魔やと思うてええんや


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自分の心に素直に、新は太一に彼なりの挑発を返し始める。

5枚くらい眼鏡なしでも束で勝つつもりでいる、その余裕。
運命戦を譲ると謝りつつも接戦にするつもりなど更々ないこと。

実力のあるものが対戦相手にこんなことを言うなんて、周りからは自惚れているように聞こえてしまうかもしれない。
でもこの言葉は相手を決して否定するものでも弱さを貶めているものでもない。欠点ばかりの自分の弱さを認めた素のままの姿であり、自分の実力を信じている表れである。

誰がなんと言おうと自分を認め尊い存在であると思う感情、それが自分の人格を大切にする気持ちつまりself-esteem(自尊心)となる。
pride(プライド)ではなくself-esteem(自尊心)を養うことで、他者の評価によって「自分の価値が揺らぐ」ということは次第になくなっていくのである。


太一



さて太一の方はというと、新との試合を通してわずかながらも心境の変化があったらしい。
新から奪う一枚一枚の札がよほど嬉しかったらしく、周防さんでさえ「楽しそうだった」と気が付くほどであった。

周防さんにとってその変化は喜ばしいものではない。
35巻の感想でも述べた通り、周防さんのカルタは人にカルタを嫌いにさせ辞めさせたくなるものである。
自分自身がカルタを楽しいと思えないため、自分に特別な情熱を注いでくれる人を除き、他人がカルタを楽しいと思うことを許すことがどうしてもできない。

カルタの楽しさを感じ、勝ちたいと思い始めた太一は、すでに周防さんにとって興味の対象ではない。
周防さんは太一から離れ、再び一人に戻ってしまった。雪の中へと消えていく彼には言い知れない孤独を感じる。「長崎に帰ってもらいたい」と願う太一の気持ちはいつか通じるのだろうか。

また太一の言葉には矛盾が生じているが、彼自身まだその事実に気が付いていない。

周防さんの真似をすれば勝てる。執着したら勝てない。
なのに、一回戦の最後では執着しなかったから勝てなかった。
勝ちたい、勝ちたい、でも手放さなければいけない。


手に入れるために手放すのか、諦めるために手放すのか。どちらの選択をするのか、これは彼への今後の課題だと思う。


ライバル



ところで「ライバル」という言葉がでてきたけれども、太一を新のライバルと言わせるには恋愛においては太一の心が??な状態で、正直言うと新の独り相撲に見えて仕方がない。
千早の恋心(ちは札)をせき止めているのは太一であり、それをあるべき場所に戻すため邪魔な太一をぶっ潰す、そういう意味でのライバルなのかなという気はする。
太一がちは札に余計な仕掛けをしたからこそ、新は本当の自分に気が付いた。新の恋心を燃え上がらせたのは、実は太一の役目であったともいえる。
またカルタにおいてもライバルにするならば、太一にも新と同じ情熱で同じ方向を向かせる必要があり、彼の情熱を引き出すのはきっと新の役目なのだろう。

二人は正反対の立場でありながら互いの足りない部分(愛情と情熱)を補完させる関係にある。そしてそれができて初めて対等な立場でのライバルになるのではないかと思っている。

恋も勝負も負けられない。二人の戦いや如何に!?続きは映画「ちはやふる-結び-」にてお楽しみください。
次回(5月1日)からは二回戦だけれども事実上の三回戦になるかと思っています。二人とも頑張れ!

末次先生のサイン会は見事に外れました!あああ…(泣)当たった方おめでとうございます。悔しいので今夜はストレス軽減のため甘酒やけ酒ガブ飲みします。はあガックリ…次は大阪にリベンジです!