ちはやふる中学生編8首感想---雪の情景

BE・LOVE 2018年7号掲載


祖父の二度目の脳溢血の後、時は中二の冬まで一気に話は進む。心臓発作まで起こし痴呆の進んだ祖父の介護は新の心身をボロボロにさせた。彼を支える由宇の心中やいかに。


祖父の介護



入院中の祖父の回復は思わしくはなかったが、それでも盆の一時帰宅での祖父の様子は悪いものではなかった。
ぼんやりする時間は多くなってきたものの、カルタの話をするとなんとか正気に戻った。「カルタが一番楽しかったのはいつやし?」と新に説き、毎日素振り300回を命じたのも丁度この頃である。

しかし初冬になり祖父の完全在宅介護になると、様子はガラリと一変してしまう。
介護の苦しさは在宅からが本番である。一気に家族への負担が増え、疲れとストレスで介護する本人の性格まで変えてしまうことがある。(これはわたしの実家でも経験あります。)
しかも心臓発作まで起こし体力が衰えてしまった祖父は痴呆が進行してしまう。孫のことも、生涯をかけて情熱を注いできたカルタさえも、思い出すことはほとんどなくなってしまった。


新の限界



新には練習する時間が足りなかった。大会に行く時間もない。
それでも在宅介護が始まる前には、親の協力により京都大会や福井の無差別級大会に参加することができた。しかしいずれも練習不足により2回戦、3回戦であっけなく負けてしまう。

祖父を一日介護するようになってからは、母のパートの間の朝の登校前と、放課後から夜まで一人で介護をしていた。父親は会社を中途採用として働いており、給料のこともあってなかなか休むことはできない。

2か月もすると介護のストレスは新の身体をみるみる蝕んでいく。
南雲会への練習にもなかなか顔を出せない。疲れでとても起きていられず、目の下にはくまができる。イメージトレーニングも、朝30分早く起きて練習していた素振り300回もできなかった。祖父を無理に支えるため腱鞘炎で腕が動かなくなった。苛立ちで友人に当たったりもする。素直で明るい母親の性格に一家はなんとか救われてはいたが、さすがの新も体力の限界がきていた。
由宇はそんな新が心配でたまらない。


由宇とカルタ



ところで由宇は幼いころ新と一緒に南雲会に入っていたが、なぜカルタを辞めてしまったのだろうか。

東京から新が戻ったとき、すでに由宇はバレーボール部に入るという理由で南雲会にはいなかった。
カルタが嫌いだったわけではない。由宇はカルタも、新も、そして新の祖父の綿谷先生もみんな大好きだった。

しかしそれは「カルタが好き」ではなく「新とするカルタが好き」だったからに他ならない。
新が導いてくれるカルタ、彼のお陰で自分がどんどん強くなっていくカルタが楽しくて仕方なかった。不思議なことに、それは他の人ではあらわれない感情であった。

新も綿谷先生もいない南雲会は自分の望む南雲会ではない。彼がいなければ由宇はカルタの道には進めない。
彼が東京へ行ってしまったとき、由宇は自分が人生をかけてカルタの道を歩くような人物ではないと、はっきり自覚したのである。

新はカルタそのものだ。新からそれを奪うことなんてできない。由宇が進むのはカルタとは別の道であり彼とは違う。
高校になって新の創部を手伝うことが出来なかったのも、入部に躊躇してしまったのも、彼と自分は住む世界が違うことを認識していたからである。


カルタだけはどうしても続けることはできない…自分ができることは介護を手伝ったり食事を作ってあげたり、何かしらほかのサポートをするだけだ。
それが少しでも新の助けになるならばそれでいい。どんなことでもいいから彼の支えになることが嬉しくてたまらない。
東京で仲良くなったとかいう女の子をちょっと嫉妬したりもする。

やっぱり由宇だって、本当は新のことを好きなのだ。


幼馴染の恋



雪が舞い降る中、由宇はポロポロと涙をこぼし自分を失いつつある新があまりにも哀れで、見ていられないほどであった。
しかし新に手を伸ばすもその背中に触れることが出来ない。

彼を助けてやりたい。でもその役目は自分ではない。

新を好きな由宇だからこそ、それは分かる。
新に手渡したのは「神様が落とした記憶のひとつ」…祖父と佐藤先生の名人戦のビデオテープである。
悔しいけれど彼の心に寄り添えるのは「カルタ」だけだと、由宇は知っていた。


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時は変わり、東西挑戦者決定戦。雪に気が付いた高校生の新が思い出したのは、いつも側にいて泣きながらビデオテープを手渡してくれた幼馴染ではなかった。
新の心を不調から救ったのは「一緒にカルタしよっさ」と約束した、満面の笑みが溢れる女の子。カルタの道をずっと一緒に歩もうと心に決めた女の子である。

新と由宇はもう違う景色を見ている。幼馴染の二人の心は雪が静かに降り積もりゆく風景のように、少しずつ変わっていくのである。

今回の中学生編と本編は、「雪」というキーワードで切ない三角関係が見事に描写されていました。末次・遠田先生の巧みな連係プレーさすがです。由宇ちゃん本当にいい子や…!映画「結び」では由宇ちゃんテイストも若干入っていた我妻ちゃんが一番のお気に入りです。来週中にでも感想アップできたらいいなと思っています。

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