ちはやふる198首感想---怒れる助言

BE・LOVE2018年 10号掲載


東西挑戦者決定戦2回戦序幕。冷静で柔軟性のある結川さんの反撃により、千早は序盤から1-7と大きくリードを許してしまう。得意札をことごとく削られる千早に対し、原田先生の差し出した札は…


削られる得意札



「人が崩れるのは長所から」というのはカルタの神様も口にしていた言葉だが、千早も例外ではなかった。千早が今回どのような状態に陥ってしまったのか順に見ていこうと思う。

まず最初に取られた札は「おくやまに」。奥山さんのイメージとして、千早が新しく一字決まりにできた得意札である。
この札は結川さんの賭けが見事に的中し、千早を動揺させることに成功した。
千早はここで気持ちを切り替えられることなく2枚目の「やす」も取られてしまう。

また一回戦同様、結川さんは左陣に厚く札を固める。千早の様子を見ながら札の位置を細かく移動させる戦法は、常にスマートで冷静な判断ができる結川さんならではであった。
千早はこれに未だに対応できず必要以上の慎重な取りになり、「あさ」を取られ焦りが生じる。

特徴のある読手の発音にも引っかかる。読手の牧野さんでの試合は千早はまだ経験がなかった。
昨年の東西戦の新・原田戦や、3年高校個人戦の新・肉まん戦では牧野さんの声を実際に生で聞いているが、それぞれ窓の外からだったり途中からだったりで十分に聞けているとは言えなかった。読手テープだと微妙な聞き取りは難しいだろうし、運が悪かったとしか言いようがない。
しかも「ゆう」「ゆら」は初期の頃から20枚の一字決まりとして自信のある札であったため、余計に悔しかったと思う。

ちなみに「ゆー」が「いゆうー」となる発音は、「言う」が「ゆう」となる発音の流れに近いのではないかと思う。

中世ごろから終止形・連体形の「いう」が融合して「ゆう」と発音されるようになり、「ゆ」を語幹として活用させた形も生じた。現代でも話し言葉では終止形・連体形は「ゆう」と発音されるが「いう」と書く。

(「大辞林第3版」より)

母音が2つ連続している場合に1つの音にまとまることがあり、これを「母音融合」と言う。
牧野さんの場合は母音融合とは反対のバージョンだけれども、「いう」「ゆう」の発音の差が元々曖昧だったのではないだろうか。若い頃は原田先生が嫌がる読手であったそうだし(22巻)、特徴ある鼻濁音や「あり・うま」の発音など、かなり訛りの強い地方の出身なのかもしれない。


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「ゆう」の直前の牧野さんの口。
若干口が横に開いていますね。


そして一番問題なのが、「しの」(もしくは「す」)。これらも得意札であるにも関わらず反応が早すぎて全く読手との呼吸が合わなかった。
この読手とのずれであるが、一回戦においては空振りをして戻っている描写によって示されている(195首)。


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195首の千早の空振り。


金井さんとの戦いで得た三字の呼吸(6巻)
「丁寧な取り」から「速い取り」への切り替えができた梨理華ちゃんとの対戦(7巻)
速くとることしかできない自分を相手を通して客観的にみれたこと(逢坂戦・13巻)


一回戦とはまるで別人のような結川さんの猛反撃により、千早の勢いはすっかりと息を潜めてしまい、今まで積み重ねてきたこれらの貴重な経験を全く活かすことができなくなってしまった。


差し出す札の意味



夏の夜は まだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ

夏の短い夜はまだ宵のままで明けてしまったけれど、これだけ明けるのが早いと、月もとうてい西の山までたどりついて休むことはできないだろう。一体雲のどのあたりに月はとどまっているのだろうか…という意味の札である。

競技線の外へ飛ばされた「なつのよは」の横には、真っ白な富士を歌う「たごのうら」の札もあった。

速くとるのをやめなさい

こんな速い取りをしたままで、本当に君はクイーンになれるつもりかね…わたしは心配でたまらんよ…。
初心を忘れた千早の状態に不安を感じる原田先生の叱咤がここには表れている。


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「なつのよは」を千早に渡す原田先生の表情は鬼そのもの。
彼女のことを本気で怒るのは、カルタに生涯を捧げる原田先生の情熱を千早が受け継いでくれると信じているからこそである。
千早に対する先生の指導は決して手を抜かないし全力で叱る。信頼関係の厚い師弟関係だからこそ、それは伝わるものである。

原田先生からの助言が何を意味するものなのか、本人がそれに気付くタイミングによって2回戦の勝敗は決まると思う。
千早・結川のこの戦いはどちらに勝利の女神が微笑むのだろうか。うーーん全く先が読めません…


クイーン戦5番勝負



そしてここにきて明らかになった、再来年からのクイーン戦5番勝負。
さて漫画ではどのような展開になるのか。

この5番勝負、現実には来年から始まりますが、わたしがそれを知ったのは今年の名人クイーン戦でした。
現実と漫画を合わせるためには今年中にクイーン戦を3番勝負で描き終わらす、もしくは来年から5番勝負で描き始めることになりますが、前者の方が可能性が高いのではないかとずっと思っていました。
しかしここで5番勝負は「再来年から」という漫画独自のルールを明言することで、話が来年に跨いでもいいから3番勝負を描く、つまりほんの少しくらいならラストを延ばしてみてもいいかなという作者の意志が見え隠れしているように感じます。インタビューでもあと2年とか言ってらっしゃいましたしねww
もちろんこれは自分の勝手な憶測なので、他の可能性も十分にあります。
いちファンとしては少しでも長くちはやふるを読みたいというワガママな気持ちはどうしてもありますが、やはり一番うれしいのは末次先生ご自身が満足いくラストを描き上げていただき「ここまで描けて良かった」と喜んでもらうことにあると思っています。