ちはやふる中学生編10首感想---愛する祖父へ

BE・LOVE 2018年10号掲載


福井県大会B級決勝。「感じ」に優れ柔軟な動きをする甘糟の反撃により、新は得意とする渡り手をことごとく潰されてしまう。窮地に陥った新がイメージしたものは…


崩される長所



「人が崩れるのは長所から」というのはカルタの神様も口にしていた言葉だが、新も例外ではなかった。

渡り手のできる配置にして自分が右を払うと、大概の選手はつられて同じように右を払ってしまう。
しかし甘糟は小柄で身体の柔軟性があり、手の下を潜るのがうまい。しかも「感じ」が新よりも優れているので渡り手の勢いに押されることもなかった。

彼の事前の対策は見事に功をなし、「ひとは」と「ひとも」、「かぜそ」「かぜを」の渡り手を封じ込めることに成功する。新は一番の得意札である「わた・や」まで取られてしまい、集中力が鈍って自分を失いそうになるが、ここでようやく今まで必死になって訓練してきたポジティブシンキング、つまり一番うれしかった時の「イメージ」の真価を発揮させる。

新が思い出したイメージ、それは袴を着て雪駄を摺りながら静かに歩く祖父の姿であった。まるで今から名人戦に向かうような凛々しく高潔なその姿は、彼が最も敬愛してやまないものであった。


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「カルタの神様」が背後の高みから見ていると思うことにより、新は客観的にみられている自分というものを意識することが出来る。
落ち着きを取り戻し本来の力を取り戻した彼に怖いものはない。ようやく完成形に近づいてきた祖父のイメージであるダイナミックで高速の腕の振りにより、14-1という大差まで追い詰める。

最後に新が何かを感じ導かれるようにして手にした札は、かつて祖父が病床で大切に手にしていた札「あらざ」であった。


音の一歩先



さて音の一歩先がわかる、とは一体どういうことなのか。
一流の選手やクイーンや名人になれるような特別の人だけが感じとれるものなのか。
才能や努力で、誰でもただがむしゃらに練習すればできるものなのか。

新がそれをできた理由は、カルタの神様との「愛情の絆」があったことに他ならなかった。誰よりもカルタを深く愛し、日々それと誠実に向き合ってきたものだけが手に入れることが出来る無我の境地である。それを祖父は「神様が音の一歩先を教えてくれる」と表現したのではないかと思う。

新の脳裏によみがえったのは、まだ幼かった日に祖父の手を握った、あの笑顔と温もりであった。祖父への愛が彼を勝利へと導いたのだ。


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感謝の心



「あらざ」は悲しい歌ではない。ただ絶望するのではなく 「あなた」にもう一度会うまでは生きようとした 希望の歌だ

佐藤先生のノートに書かれていた「あらざ」の本当の意味。
自分なら「あなた」にまず最初に何を伝えようか…新が思い浮かんだことは、今まで必死になって頑張ってきた「A級」という目標達成の報告ではなかった。

じいちゃん かるたを教えてくれて ありがとう

それは敬愛する祖父へ捧げる感謝の言葉。人として一番大切なことを、新はちゃんと分かっていたのである。

そして恐らくこの時にはすでに息を引き取っていたのだろう…白昼の夢枕として祖父が新の前に現れる。祖父の表情は慈愛に満ちた穏やかなものであった。

「今まで一緒にかるたをしてくれて ありがとう」


祖父もまた新と同じように、この言葉を言いたかったのではないか。彼にとって新は、病からカルタを愛する心を取り戻してくれる希望の光であった。天国に向かう前に、どうしてもその感謝の気持ちを最愛の孫に伝えたかったのではないかと思う。


風になびく



互いに思いやる二人の気持ちは風になびき、富士の煙となって青空に消えていく。
煙はいつしか厚く暗い雲を呼び寄せ雨雲となる。季節は梅雨。天気予報では次の日からはしばらく雨の日が続くらしい。
しかし重苦しい天気はいつまでも続くわけではない。いずれはその雨雲も、東からの一陣の風により勢いよく吹き飛ばされる。その後には透き通るような清々しい青空が再び広がるはずだ。

表紙に描かれた花はカキツバタ。花言葉は「幸せはあなたのもの」。いつかは必ず幸せが訪れる。新にとってのカルタは、神様から贈られた「幸せのギフト」である。

―――カルタを大好きで楽しいと思っている限り、カルタの神様はずっと新の傍にいてくれる。
だから何があっても負けないで。神様はいつでも、あなたを見守っているのだから―――

今回にて新編は終了ですね。辛く悲しいエピソードが続きましたが、最後まで新に真摯に向き合っていただいた遠田先生に深く感謝します。毎回どれだけ目頭を熱くしたことか…本当にありがとうございました。それから遠田先生の須藤愛もめっちゃ伝わってきました(笑)とうとうチビスドーが花まで背負ってましたねww次回からは千早編、最後に詩暢編でしょうか。千早編では部活と受験の両立、それから和歌に隠された恋の意味を理解しようとする場面も描かれるのかな…?さてどうなりますか、楽しみです。