ちはやふる38巻感想---詩暢と結川

2018年5月11日発売


38巻の表紙は水に漂う妖艶な千早とそれを取り巻き戦う闘魚(ベタ)たち。


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ベタ

もともとオスが縄張りを持つ種で、縄張り内に入る他個体を威嚇、攻撃する性質がある。飼育下でも、オス同士を混泳させると互いに背ビレや尾ビレやエラを最大限まで広げ、体を震えさせて威嚇し合う。

千早の襷には赤い刺繡の「綾瀬」の名前。着物には川と色づき始める紅葉の絵。山を縫い流れゆく早の岸では少しづつ木々が色をなし始めている、そんな情景である。
当初は秋風に吹かれ凛とした姿を想像して描かれたものだろうけれども、あえて横向きにすることにより、闘魚に囲まれ水に漂い行き場を失う儚げな千早となった。デザイナーさんの発想の機転に拍手。

ベタの色は赤と青、それぞれ新と太一を表しているのだろうか。それとも「情熱」と「嫌悪」の象徴か。
見る人によって様々な想像力を掻き立てる、非常に美しいイラストだと思う。


詩暢と結川



さて今回メインは東西挑戦者決定戦にて戦う二人の男たちであったが、もう一つの物語として印象深かったのが詩暢と結川さんとの不思議な交流である。

詩暢が結川さんに会いに来た理由として「左利き同士」というマイノリティとしての同族意識を理由に挙げていたけれども、それだけでわざわざ東京まで来るとは考えにくい。
例えば机君のように同じ左利きである選手だったり、数か月前までのいまいち真剣になり切れない結川さんだったり、もし彼らのために応援しろと言われたらそれはNOであろう。

そもそも詩暢が明星会へ再び足が向いたのは、カルタのお友達をたくさん作りたいという単純な気持ちではなかった。
高校選手権で仲間の力を借りて一段と強くなった新に触発された事、また「詩暢を倒して世界一になりたい」という千早の下からの突き上げに押されたことによる。
自分では認めたくなかったものの、一人だけでは強くなることに限界があることを心のどこかで感じていたからであった。

しかし明星会での記憶はあまりいいものではない。
その強さゆえ本気でカルタをすれば他人から疎まれ、逆に手を抜いて喜ばれるかと思いきやそうでもなく、カルタに申し訳ない気持ちになってしまうばかりである。他人から常に嫉妬され避けられてしまうという、天才ゆえの孤独な宿命を背負っていた。
詩暢は「自分と対等に戦ってもらえる相手」にずっと飢えているのである。

詩暢が結川さんに心を開き始めたとわかるシーンが197首にある。
京都からわざわざ届けに来た着物の下着を拒否した結川さんに対し、詩暢は何も言えずただ笑うしかなかった。
結川さんを思ってこその行動だということを表したいのに、コミュニケーション能力が欠けているためどうしてもそれを言葉にして伝えることができない。ぎこちない笑顔は相手に敵対心がないことを示すためのものである。詩暢の不器用さがよく表れたシーンであると思う。

本人の前ではなかなか素直になれないながらも、京都から慣れない東京まで足を運ぶ一大決心をしたのは、紛れもなく結川さんのためである。普段ではありえないような詩暢の行動であるが、詩暢は一体彼女のどんなところに心動かされたのだろうか。


1.自立した女性であること



詩暢は自立した女性に弱い。
これは普通の仕事さえ思うようにできない自分の性格からのものでもあるが、居候の身で肩身の狭い思いをしている母親を反面教師にしていることもあると思う。
医者の道を確立し社交性もある結川さんは、女の腕一本で若宮家を守っている祖母と同様、詩暢にとって憧れの存在であった。


2.カルタに誠実な態度であること



「勝ちたい」という強い気持ちがあるにもかかわらずダブを誤魔化そうとしない結川さんの態度からは、彼女の誠実で真面目な性格を伺わせる。普段の練習で詩暢もそれに気が付いているはずである。
カルタを裏切るような人とは絶対に仲良くできない。修学旅行を言い訳にしてクイーン戦予選を放棄するなど以てのほか。(これは修学旅行は仕方ないまでも、千早の言い方がマズかった。)
結川さんの律儀な性格も詩暢が好意を持った理由の一つだと思う。


3.左利き



マイノリティとしての同族意識も大きなポイント。
少数者同士は繋がりを強くする傾向がある。
ほんとのかるた見せれるもんな ほんとのかるた 左利きの
左利きというプライドを持って戦う姿勢が、この言葉にはある。


4.カルタが好きであること



カルタプレイヤーおたくという方向性の違いは若干あるけれど(笑)カルタが大好きであることに変わりはない。


5.実力



千早の弱点を的確に分析し即座に対応できる能力は結川さんの強い武器である。
周防さんほどの感じのよさにも引け目をとらない彼女の戦略は、詩暢も認めるところだろう。

詩暢は「ありのままの自分の実力を受け入れてくれる」選手をずっと欲している。
カルタの女神のお眼鏡にかなう条件はかなり厳しいものだけれど、富士の高嶺に近づくために彼女ほど心強いものはない。
結川さんは、そして千早は果たしてその思いに応えることができるのだろうか。
女神の微笑みをどちらが得ることができるのか、次巻からの女性陣二回戦の戦いに注目していきたいと思う。

2週間前にパソコンが潰れて以来、修復作業は遅々として進んでいません。拘りのある使い勝手の良いパソコンだっただけに、復旧を待つか思い切って買いなおすか悩むところ。とりあえず古いノートパソコンと処理の遅いタブレットで凌いでいますが、不便な環境で四苦八苦してます。次回の199首の感想は若干遅れます。