ちはやふる中学生編12首感想---孤高の証明

BE・LOVE 2018年13号掲載


文化祭の準備を一緒に手伝うことになってしまった詩暢と美稀。資料作成の途中に寄った文化会館で二人が偶然出会ったのは、前クイーンの猪熊遥だった。


エアかるた勝負



「若宮詩暢は強いのにクイーンを目指していない」という甥っ子の噂を聞いていた遥は、彼女に少なからず興味を抱いていた。身重の遥が提案したのは頭の中で取り札を思い浮かべて戦う「エアかるた」。強いのに勝ち負けに興味がないなんてウソに決まっている…遥の強引な誘いに戸惑いながらも詩暢はその勝負に乗る。

しかし詩暢は慣れない戦いのため15枚という大差で敗れた。
どう?悔しいでしょう?あなたが本当に強いのなら、もっともっと強くなってわたしと楽しみましょうよ…勝負に尻込みをする詩暢に対し、遥は彼女の気持ちなど構わずにグイグイと煽ってきた。カルタの強さ、地位、名誉なんて気にせずにとことん楽しんだらいい。周りの人の支えを最大限に利用して元気玉のように自分のエネルギーにする遥に対し、詩暢は胸を搔きむしられるような嫉妬感を覚える。

嘆きつつ一人寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る

詩暢は孤独を嘆くのではなく、受け入れた。弱さを認めることで、より強くなれる。

詩暢が愛しているのはこの世でカルタしかいない。なら小っちゃな神様たちだって、一番に愛しているのはきっと自分だ。
この子たちは決して誰にも渡さない。みんなうちが迎えにいく。
周囲の助けなんているものか。札に愛されるだけで十分だ。
一人のほうが強いことを、いつか証明してみせる。

この子ら以外に友達がおる人に この子らを渡したない


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遥の強さを認めることは、一人で戦う詩暢の存在を否定することになってしまう。この対戦は孤独という道を選んだ詩暢の闘争心を大いに刺激した。仲間というものへの敵対心から、詩暢は札への愛情をより深め、札もまた自分を愛しているというイメージを一層強くしていくことになる。


クイーン戦にて



愛するべきはカルタだけ。人への不信感は拭いきれない。人の悪意で傷つくのは、どうしても怖くて受け入れられない。
けれども心のどこかで「誰かを愛したい、愛されたい」という思いは確かにある。

のちに詩暢と遥はクイーン戦で再び対峙する。二人の実力はほぼ互角であったが、勝負を決めたのは詩暢である。最後詩暢が敵陣奥へ切り込めたのは、祖母の描いた軌跡に導かれたからであった。「自分はカルタだけでなく祖母も愛している」と彼女自身がそれを認めたからに他ならない。

脳裏に鮮やかに浮かんだ祖母の示した直線は、まるで宇宙に尾を引く彗星のように美しい軌跡を描いていた。


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ちはやふる25巻130首。
詩暢・猪熊戦にて。


詩暢の心には恐ろしいほどの寂しい闇が広がる。誰も知ることのないその深淵には、「愛」を欲する無数の星が密やかに瞬き続けているのである。


美稀とのすれ違い



エアかるた勝負の後、詩暢の実力に(なんとなくだが)感銘を受けた美稀は、詩暢に自分が「一番頑張っているもの」である弓道を見てもらった。美稀だって何かを一生懸命に頑張っている、そう実際に伝えてもらったことで、詩暢はわずかながら彼女に心を開く。しかし「やっと友達になれた」と喜ぶ美稀に対し、つい「うちに友達はおらん」と冷たく一蹴してしまった。

美稀は、とある秘密を抱えている。詩暢と「似た者同士」と呼んだのはそれが理由なのもあるのだが、わざわざ言い出しにくかったのだろうか…きちんと伝えることができていなかったのがよくなかったのかもしれない。

詩暢にしてみれば、二人の間には「実力のないものが一位を目指している」のと「トップの実力があるのに勝負なんてしたくない」ものとの雲泥の違いがあるわけで、なぜにそこまで美稀に慕われるのか、そして自分たちがどうして似た者同士なのか理解できるわけもない。ましてや「友達を愛すること」を極度に恐れていることもあるため、美稀の隠された本心など到底分かるはずがなかった。

ほんの些細な二人のすれ違いは、掛け違えたファスナーのように心の傷を少しずつ広げていく。そしてその誤解は解かれることもなく、美稀が学校に来ることは、もうなかったのである…

今回のベストショットはトゥンク…と胸をときめかす詩暢ちゃんでした。まさか詩暢ちゃんが(相手が誰であれ)恋に落ちる瞬間を見られるとは…!ちはやふるが少女漫画だったことを、久しぶりに思い出させてくれた一コマでございましたwwそして弓道着姿の美稀が予想以上にかっこいい。平井君といい、美稀といい、中学生編だけでは勿体ないくらいのいいキャラだなあと思います。