ちはやふる中学生編13首感想---それぞれの道へ

BE・LOVE 2018年16号掲載


詩暢は美稀が重い心臓病を患っていたことを知る。美稀の本心を知った時、詩暢の心に新たな決意が芽生える。


美稀の本心



文化祭当日一人で展示会を担当していた詩暢のもとへ、美稀の母親が見学に来る。そこで知らされたのは、幼いころから美稀が重い心臓病を患っており、入退院を繰り返す不自由な生活を強いられていたことだった。

詩暢は美稀のもとへ足を運ぶ。突然見舞いにきた詩暢に美稀は驚きを隠せない。見舞いに来てくれたことに感謝をし、心を許せたからだろうか。彼女に対して抱えていたわだかまりを、美稀は少しずつ吐露していった。

心臓がいつどうなるか分からない美稀にとって、「自分」という存在を証明するためには弓道しかなかったこと。父親の転勤や入退院の繰り返しで本当の友達が一人もできなかったこと。美稀と同じように孤独でありながらも、一つのものに全てを捧げる詩暢にシンパシーを抱いていたこと。しかしいざ詩暢を目の当たりにすると、病気で思うように動けない自分が悔しかったこと。実力がありながらも何も動こうとしない詩暢に苛立ちを感じていたことを白状し、美稀は涙ながらに謝罪する。

余談ですがこの行動は、202首感想で述べた太一同様、美稀が詩暢に自分の鏡を見ているのですね。誰か特定の人に酷く心がかき乱されたり異常に苛立ったりするのは、自分の抱える劣等感や普段ひた隠しにする欠点を、その人を通じて刺激させられるからです。それは身近な人ばかりではなく、有名人や著名人、漫画のキャラが相手でも起こります。美稀はそれから逃げようとはせす、本人の前に自らの弱さをさらけ出して謝っている。こんなことってなかなかできるものではありません。わたしにもできません。本当に立派な子だなあと思います。


心臓にも妹にも詩暢にも負けたくないという美稀の告白に、詩暢の胸の奥で何かが騒めく。岩の隙間からこんこんと湧き出す清らかな水が、心を満たしてくるのを感じる。それは詩暢が初めて感じる「生きる」というエネルギーであった。自分には絶え間なく躍動する心臓があるじゃないか。誰よりも早く札を払える腕も能力も持っている。目にも耳にも不自由はない。何もかも持ちながら、いったい自分はここで何を立ち止まっているんだ。

カルタしかできない自分に何ができる?カルタしかないから、できることがたった一つだけあるだろう!

うちクイーン戦に出る クイーンになるわ

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誰にも負けたくないという強い思いは詩暢の心を突き動かした。こんなに負けず嫌いな子には初めて出会った。もしかすると自分たちは似ていないようで似た者同士だったのかもしれない。二人は誰よりも近くかけがえのない存在となったのである。


そしてクイーンへ



しかし二学期から美稀は転校となってしまう。それから二人は出会うことも手紙を書くこともない。友達に深く付き合えば付き合うほど別れは一層辛くなる。美稀にはどうしてもそれが耐えられなかった。交友関係は表面的な付き合いさえあればそれでいい…彼女も詩暢と同様に、友達を愛することに不安を抱える一人の少女であった。

だが誰にも触れさせないような心の奥底で繋がった者同士というのは、ごく稀に不思議な縁を生み出すことがある。たとえ相手の思いに応えられず離れようとしても、たとえ当事者同士がもう関係ないと思っていたとしても、それは偶然に、必然に、あるいは第三者からの恣意的・意図的な干渉により…自分の存在より遥か上の何らかの意思によって、二人の魂は運命のさざ波に揺られながら音もなく引き寄せられていく。

中三のクイーン戦当日、詩暢が目にしたものは弓道の全国レベルで活躍する美稀の名前だった。持病がありながら、あれからどれほど努力したというのか。詩暢の心には再び泉の水が沸き上がるのを感じた。友達というのはどういう存在なのか、結局はよくわからない。友達はカルタだけで十分だ。けれども道は違えども、彼女にだけは負けたくないという気持ちだけは強く感じる。美稀が入賞の位置にいるならば、自分が狙うのはもっと上、カルタ界のトップに君臨することだ。

美稀にだけは絶対に、絶対に負けはしない。これから戦う相手にも、そして自分自身にも。

「クイーンになってくるわ」詩暢は浦安の間へ力強く一歩踏み出す。若宮詩暢・史上最年少クイーン伝説の幕開けであった。

小説版三巻を読んだのは、オフ会でとある人から「詩暢ちゃんの不思議さがよくわかる一冊」と勧められたからでした。彼女の複雑な心境は一読しただけでは難解だったのですけれども、ようやくその紐が解けていけたような気がします。漫画版を読んでますます詩暢ちゃんが好きになりました。それから本編39巻&中学生編2巻発売ですね!特装版が豪華ですね~39巻感想は月末あたりにします。