ちはやふる205首感想---神様のギフト

BE・LOVE 2018年19号掲載


東西挑戦者決定戦がとうとう決着する。男性陣二人の勝負の行方は如何に。

「5番勝負のクイーン戦をしたい」そのように述べる詩暢は、理由を以下のように述べる。一つに女子高生のクイーンには話題性があること、二つに挑戦者までが高校生なら尚更世間の注目を浴びること、三つに自分がカルタのプロになるためにはどんなことであろうともそれを利用すること、そしてもし「二人目以降のプロ」を目指すものが出るならば、その人のためにもプロの道を確実なものにすることが必要である、そういう目論見が詩暢にはある。

おもむろに飛び出した五番勝負とプロ化の話に千早は返事に窮し、名人戦予選の結果を見るため、とりあえずその場を慌ただしく立ち去る。果たして詩暢の提案に千早はどう応えるのか。(しかし公務員とプロの両立って実際にはどうなんでしょう?プロの二人目ってもしかして、同じコマに描かれているこころちゃんのことなんでしょうか。それとも別の誰かか。)


予選決着



名人戦予選では目を疑うような光景が広がっていた。新と太一は4-20、その差はなんと16枚。太一はすっかり新の戦いのペースに飲まれてしまっていた。

新は太一への友情に掻き乱されることはもうなかった。カルタはカルタ、友情は友情と割り切って冷静沈着に戦いを進める。たとえ太一の気遣いや優しさを試合中に垣間見たとしても、決して気持ちがぶれることはない。

新が最後の一枚になったとき、二人の差は17枚。これほどの差があるのなら、彼は敵陣を気にすることもなく自分の持ち札だけに集中すれば、余裕で優勝することができる。しかし読まれた札は千早の一枚目である特別な札「ふくからに」であった。新は太一の「一番きれいな気持ち」を踏みにじることさえ躊躇せず、彼からこの札を文字通り「もぎ取った」。

新の非情なまでの冷酷な戦いぶりに、さすがの千早も表情に陰りを見せる。戦いに私情は禁物というのは重々承知しているとしても、二人に幸せになってもらいたいと願う彼女には、友情を裏切るようなこの流れに納得することがどうしてもできなかった。(ちなみに一戦目の太一も相当ひどかったが、千早は戦いの真っ最中でよくわかっていなかったと思う。)新は太一のことなどどうでもいいのだろうか…そんな千早の気持ちを救ったのは試合直後の新の言葉であった。

こんなに長くやって こんなに強くなるまで努力して どんな顔しておれが太一のこと邪魔やって思えるんや……

「千早と繋がるには太一がどうしても必要だ」という呪縛を、新はようやく解きほぐす。「千早と繋がるために太一は必要ない」でもなく、「千早とも太一とも繋がらない」でもなく、彼は「千早とも繋がるし、太一も必要だ」という一番清らかな思いにそれを昇華させる。その思いは天へと舞い上がり、カルタの神から祝福の贈り物を授けられる。呪縛の糸は神によって美しく織りなされた羽衣へと姿を変え、二人を優しく包み込んだ。


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か…かるたを一緒にしてくれてありがとな

太一が欲しかった言葉は「すごかった」でも「強かった」でもない。彼にとって一番必要な言葉は、手に届かないような偉大な力を持つ存在から「一緒にカルタをしてくれてありがとう」と最大の敬意をもたらされることであった。

対等でありたいというのは、決して褒められたり実力が勝ることばかりではない。今までの努力を理解してもらい、信じてもらい、素直に肯定してもらえること。そして相手から敬意と感謝の気持ちを伝えてもらい、格上・格下の立場関係なく「一人の友人」として接してもらえることこそが、本当の意味での「対等になる」ということである。千早同様太一の心を救ったのは、紛れもなく新からもたらされた「ありがとう」というたった一つの言葉であった。

さっき札を並べたとき 生まれて初めて札が愛しかった

愛しいと思う、その手元にあるのは「あらしふく」。この札は新を表す、新の一枚目の札。生まれて初めて「新」が愛しかった、と彼は思う。

友達を 先生を 懸けるべき青春を この時間をくれたかるたが愛しかった

カルタは新であり、新はカルタそのものである。この時間をくれた「新」が愛しかった、と彼は思う。

もし千早がいなければ、この二人の関係は一体どうなっていたのだろうか。新はサッカーを本当にしようとしなかっただろうか。太一はカルタに全く興味を抱かなかっただろうか。その「もしも」の話はすでに本誌に登場している。中学生編の太一と平井は、二人の間に千早の存在しない太一と新のもう一つの物語である。彼らはときにはいがみ合いながらも、お互いが相手の才能や努力を認め合う、より良い交友関係を築けていた可能性は十分にある。そんな「もしも」の世界が一つでもあると信じるだけでも、心が洗われるような、温かい気持ちになることができる。

雪に固く閉ざされた二人の心は、天がもたらす柔らかな光によってようやく溶けていく。雪解け水はダムの放水のように勢いよく全身を駆け巡り、心臓を揺さぶり、一つの出口から堰を切ってあふれ出す。それは頬を伝い、躰から離れ、名残惜しそうに一粒、また一粒と畳に沈んでいく。

「カルタ」そして二人の「友情」はカルタの神様から贈られた幸せのギフト。いつかきっと幸せはやってくる…39巻の表紙のカキツバタに込められた願いは、ようやくここで結ばれることとなった。

ちはやふるに出会ってから、この二人の友情が描かれることを、ずっと、ずっと待ち望んできました。今回の話は末次先生の愛がたくさん詰まった、読者へのギフトだと思っています。素晴らしい贈り物を、本当にありがとうございました。



先日9月8日は末次先生のお誕生日でした。お祝いが随分と遅れてしまい申し訳ありませんでした。お誕生日おめでとうございます。よりよき一年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。