ちはやふる中学生編15首感想---二人と一人

BE・LOVE 2018年19号掲載


何もかも上手くいかない自分に思い悩む太一に対し、千早はチームちはやふるでの思い出を語りだす。それは太一のカルタを大きく変えることとなる。

太一と千早は夜の公園のブランコに揺られながら、小学生時代のことを語り合っていた。チームちはやふるの三人で雪合戦をしたこと、市民対抗戦で最後のカルタをしたこと…。その時の太一はがむしゃらに自分の戦いばかりを気にしていただけであったが、意外にも千早は太一や新の様子をよく見ていた。太一は余裕のある千早の戦いぶりに驚く。

だってすっごい楽しかったから!二人も楽しんでるかなー?って気になって

カルタを楽しむ…?チームちはやふるの経験からヒントを得た太一は、さっそくそれを実戦で活かすことにする。


源平戦



カルチャーセンターにて、カルタ同好会・最初で最後の対外試合が始まった。今回はカルタ100枚を並べて三人で戦う源平戦となる。太一がここで心掛けたのは「周りをよく見てカルタを楽しむ」ことであった。

彼は千早のカルタを思い出す。自分のためではなくみんなのために戦い続けること。自分の強さに自信をもち、仲間に勇気を与え続けること。

チームの真ん中でリーダーとしてカルタを楽しむ太一の姿は、まるでチームちはやふるで戦っていた勇ましい千早を彷彿させるようであった。声を掛けることが仲間の力になる。強さが二人にも伝播する。細やかなフォローがチームの役に立っている。仲間とのハイタッチが何よりも嬉しい。今までの努力がようやく報われたようで、彼の顔には生き生きと喜びが満ち溢れていた。また周囲への気配りを決して忘れないこの経験により、リーダーシップという彼の天賦の才能までもが大きく開花することとなった。

こう考えると高校時代におけるカルタやリーダーシップの原点は、チームちはやふるの千早だったことがよく分かります。彼の「憧れのカルタ」が、新や原田先生、周防さんなどではなく「千早」を選んだことも、今回の話を読んでなるほどと納得することができますね。



勝つためのカルタと趣味のカルタ



源平戦で勝利した太一は久しぶりに勝利の喜びを思い出す。目標を高く持って努力する苦しみを乗り越えることができれば、得られる楽しさもひと際大きい。と同時に、勝つためのカルタがすべてではないことも藤原先生や平井に諭される。純粋にカルタを楽しむだけでも、それはそれですごく大事だと。

勝つためのカルタか、楽しむだけのカルタか。

…真島君は これからカルタどうしていくの?

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平井の問いに太一はぐっと言葉を詰まらす。それはどちらも正解であり、どちらも間違いではないからだ。何気なく発せられたその問いは、喉に引っかかった小骨のように太一に違和感を残す。その後すぐに平井はニューヨークへ旅立ち、カルタ同好会も解散し、サッカー部も引退で、太一はまた一人ぼっちになってしまった。その答えはまだ出ないままに。


二人と一人



それから三か月後、初めて付き合うことになった女子から「いつも寂しそうだ、笑ってほしい」と言われることで、太一はずっと自分が落ち込んでいたことに気が付く。今は何もかもが楽しくない。カルタを頑張ろうという意欲も沸かない。楽しそうに笑っている千早を思い出すと、心が軽くなり晴れやかな気分にはなれる。けれど彼女はこちらを見ていない。彼女の笑顔の先にはいつも新がいる。仲良くカルタをしている二人を思うと、ひどく疎外感を感じてしまう自分がいた。

チームちはやふるの思い出だけは汚したくない。カルタが楽しくないなんて思う自分は認めたくない。それならば、勝つためのカルタを諦めて趣味としてのカルタを楽しもう…。

もちろん太一は元来が負けず嫌いだし、「勝ちたい」という思いはある。しかし新の力はあまりにも偉大で強大すぎて、彼のところまで辿り着けるような自信が太一にはなかった。千早のように苦しみに耐えながら努力して、それでも楽しいと思える情熱がなかった。太一は「勝つためのカルタ」という壁に書かれた文字をペンキで重ね塗りするように消してしまい、カルタはあくまでも「楽しい趣味の一つ」でいいと思い込んで、これからも細々と気楽に続けていくことにした。カルタを楽しいと思うには、そうするしか他に方法がなかった。

新と千早のところに行きたい…


そう書かれた一枚の紙きれを太一は小さく折りたたみ、ガラスの瓶に詰め、しっかりと蓋をし、誰にも見つからないように心の奥底にそっと隠してしまった。白く広がる砂浜に、それを埋めるように。自分でもどこに隠したかわからないほど、深く、深く。いつか幾度となく押し寄せる大波で瓶が地表へと露わとなり、一人の師匠によって蓋をこじ開けられるまで、金木犀の香りに包まれた「本当の気持ち」は永い時を静かに眠りにつくことになる。

今回で平井君が最後だと思うとちょっと寂しいです。いつかどこかで出てきてくれないかな。太一はやっぱり長髪がいいですね。どうか本編の太一の髪の毛がにゅるんと高速で伸びますように(笑)