ちはやふる209首感想---絵札の秘密

BE・LOVE 2018年1号掲載


今回のサブテーマは「詩暢のドキドキ☆ときめき綿谷家お泊り会」


綿谷家お泊り日記



カリスマ(?)ユーチューバ詩暢は、動画に一切の妥協を許さなかった。失敗を恐れず自然体の自分をありのままにカメラに映し出し、それを躊躇なく全世界へ向けて発信する。動画には細やかなテロップと効果音、視聴者を意識した番組作りも欠かせない。人には笑顔を、心で血の涙を。批判もアンチスレもどんとこい。三試合連続敗北でも、風呂掃除でさめざめと泣くシーンでも、綿谷家お泊りでも何でもござれ。全てはカルタのプロのために、詩暢は今日も我が道を行く。

パジャマに着替えて深夜の一人反省会をする詩暢。その部屋に忍び寄る男の影…それはなんと新だった。「もうがまんできん」「お許しをーあーれー」という視聴者の不純な期待に応えるなど、当然のこと新にはあるはずもない。悟りを開いたブッダのような律儀な貞節を持って、彼女にカルタをすっと差し出す。取られた札を見返して反省しようというカルタバカなりの気遣いであった。というか、めったにお目にかかれない女子の寝間着姿なんだから、詩暢ちゃんに対してもうちょっと何か反応しようよ、新くん…(チッ……)

新との試合で取られた札を確認しながら、苛立ちを隠せない詩暢。新と対戦すると、何故か何度も同じミスをしてしまう理由が全く分からない。これどう考えても、新に詩暢の取り札の癖を読まれている気がするのだが、どうなのだろう…。一人で練習してきたせいで、詩暢の癖は誰からも指摘されなかった。だから自分でも気付いていないのではないか、と。真実はわからないけれど、クイーン戦までになんとかして原因が特定できるように祈るほかはない。

というわけで負け続きの詩暢は出直して、綿谷家に再度連泊決定。「うっわまた来た!」と本気で心底嫌がる新(笑)など全く意に介さない。どれだけ邪魔者扱いされようとも、自らの弱点を克服するまで、果敢に新に挑み続けてやると詩暢は意思を固くする。というか学校はいいのか、詩暢ちゃんww


絵札の秘密



さてかるたクラスタの間では、まるでインフルエンザウイルスが爆発的に蔓延するかのように、詩暢と新の動画の話題でもちきりであった。その騒めきは千早にも届き、奏たちと一緒に動画を視聴する。深夜の二人の密会にときめく女子たちを尻目に、千早が気にしたのは詩暢の反省札。違和感を感じたのは「札がみんな新を好きで…」という、札を擬人化した詩暢の何気ないつぶやきであった。千早は桜沢先生から言付かった田丸の言葉を思い出した。桜沢先生曰く、「読み札」に注目しなさいと。

千早はすぐさま部室へ駆け込み、詩暢の配置図を「読み札」で広げる。その場に広がった異色の世界に、千早は心臓が矢で突き刺されるような衝撃を覚えた。

左上段には賑やかな貴族たちで玄関を、右上段はごついおっさんで強固な壁を、右下段端には一字決まりの寝室を。寂しい時に訪れるのは、右中段の遊び場にいる社交性のある貴族たち。詩暢の作り上げたカルタの世界、カルタの「家」が、絵札の中で無限の広がりを見せていた。

それは詩暢の心の中を絵札に映し出した姿でもあった。その心の一番深く、詩暢の一番大切な場所である左下段の札に千早は気が付く。そこには左中段の持統天皇・小式部内侍たちに守られるようにして、清少納言の札「よをこめて」がひっそりと隠されていた。


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「逢いたいといって友達のふりして騙そうったって、うちはその手にはのらん。友情なんて一切お断りや」


幼いころからカルタの才能に恵まれすぎて、そのせいで誰からも受け入れられなかった詩暢。友達を傷つけるのが嫌で、逆に友達から傷つけられるのも嫌で、友達作りを諦めてカルタの世界に引きこもってしまった詩暢。平静で穏やかなカルタの世界に満足しながらも、孤独の苦しみを彼女はずっと抱えている。ずっと愛に飢えている。美しく壮麗な貴婦人たちに優しく見守られながら、カルタの奥深くに閉じこもり一人静かに膝を抱えて泣く詩暢の本当の姿を、千早はこの世界に垣間見たような気がした。

カルタが友達であるうちはまだいい。でももし、そのカルタが一枚、一枚と自分の手から離れてしまったら…?そんな危惧を渡会は詩暢に抱いていた。それはかつて自らが経験したことでもあるから。「家」に残るのは詩暢たった一人、そんな悲しい彼女の姿は見たくないと渡会は千早に語る。

綾瀬さん 詩暢ちゃんに勝って 泣いて笑って同時代をずっと戦えるような ほんとのともだちになって

本当の友達になるには彼女をより深く理解するしかない。千早は溢れる涙を心からの愛情に変えて、改めて小さな神様たちと詩暢の「家」に挨拶する。

こんにちは ご挨拶が遅れました みなさんが詩暢ちゃんのお友達であり 詩暢ちゃんのおうちだったんですね

千早がこれからするべきこと、それは自陣の左下段を最強の盾で守りつつ、詩暢の最深部である敵陣左下段へ鋭く切り込むことだった。詩暢の「家」に風穴を開けて窓に太陽を射し込み、詩暢の住む部屋まで光を届ける、そうすれば詩暢はきっと千早に振り向く。

しかし千早ができるのはそこまで。その先詩暢が千早へ手を差し出すかどうか、千早の友情を信じるかどうか、それに関しては彼女自身の問題であり、千早にはどうすることもできない。千早に必要なのは詩暢への理解であるが、詩暢にもまた、千早からの愛や友情を信頼する勇気が必要なのである。(これについては改めて各巻感想にて詳しく述べようかと思います。ちなみに2巻感想では千早と太一の関係について述べる予定です。)

「私が詩暢ちゃんを一番理解するものになる」千早は詩暢の本当のライバルに、そして本当の友達になろうと再び心に誓った。名人・クイーン戦まであと30日。リアルでもあとひと月。さてどうなる。次号へつづく。

今回無理かと思いましたが、なんとか予定通り更新できました。やれやれ(;^_^A 210首感想は年明けになるかと思います。次回はなんと二話同時掲載!そしてビラブの月刊化!?マジですか。これから連載がどのような形で続くのでしょうか、気になるところです。