ちはやふる210・211首感想(1)---一廉

BE・LOVE 2019年2号掲載


周防の心に巣くう闇とはなんなのか。太一は原因を探るため、周防に接触を試みる。


ひとかど



東西戦が終わってから2、3週間が経過した。予備校での周防は相変わらず受験生相手に飄々とした態度を取り続けている。しかし太一は東西戦直後に見せた周防の様子をずっと気に掛けていた。彼はなぜ故郷の長崎へ帰ろうとしないのだろうか。その本心を探るべく、太一は彼に接触を試みた。

周防は太一を拒むわけでも喜ぶわけでもない。ただ淡々と、どうせ自分が勝つからとつれなく話すだけである。しかし「周防の可愛い教え子」として以前と変わりなく接してくれる太一の様子は嬉しくもある。なんとかして周防の気持ちに寄り添おうとする太一の好意は、彼とは一線を引こうとしていた周防の心をわずかに動かし、心の奥底に潜むものをほんの少しだけ覗かせることになった。

名人になれるほどの弟子を育てたら ひとかどの人間になれたのかな

周防は今まで誰にも見せたことのなかった願望をひとりごちる。

太一は優れた洞察力のスキルでもって、二人の短い会話の中から主要なヒントを得ることに成功した。周防から太一が引き出せた情報は次の通り。未だに周防は弱い自分の姿を想像できずに目を逸らし続けていること、「一廉(ひとかど)」というワードに妙に拘ること、そして長崎の「兼子さん」が周防になんらかの関りをもっていることなど。

それからの行動力は大したもので、太一はネット情報から周防と兼子との関係を調べ上げ、なんとなんと周防の故郷・長崎県大村市へと自ら足を運ぶことになるのである。これはさすがに予想していませんでした。太一さんスゴすぎ。

周防の実家は太一が思っていた以上に賑やかで、騒々しくて、包容力にあふれていた。周防が帰らないことに不服を漏らすわけでもなく、大人しかった彼に親しみさえ持っていて、笑顔で分け隔てなく客人をもてなしてくれるような心優しい住人ばかりであった。東京から長崎まで遠いとはいえ4時間足らずで来れる距離だし、こんな明るい家族のもとへ周防がなぜ帰ろうとしないのか、太一にはさっぱり理解できない。(ちなみにうちから東京府中まで4時間以上かかるので、それより近いですww)大した成果も得られないまま太一は帰ろうとするが、それを引き留めたのは周防にとって特別な存在であろう「兼子さん」であった。

久志のこと知っとるん?会ったことあるん?あの子は元気にしとるやろか?元気にしとるやろか……

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兼子さん



帰る間際に、太一は周防家の家系図を見せてもらっていた。その家系図には、妻や夫、子供や孫といった幸せな家族の豊かさが滲み出ていたが、その一方で、ぽつんと孤島のように取り残された名前が二つだけあった。両親に見捨てられた「久志」、そしてもう一人は出戻りで夫や子供のいない「兼子」。家族の輪からはぐれてしまった彼らにとって、家族愛に満ちたこの家は彼らの目にどのように映っていたことだろう。周防家の喧しさは、たとえそれが分け隔てのない人間愛からくるものだとしても、二人が寂しくないだろうと決めつけることは「持っているもの」からの勝手な視点でしかない。当事者から見れば家族の愛なんて所詮は他人事であり、逆に疎外感をもたらすことだってある。そして自分たちの光を失わせてしまう網膜の病気は心の闇を増幅させ、その疎外感にさらに拍車をかけてしまう。

彼らは心の中に大きな孤独を抱え込んでいた。自分という存在を卑下していて、手で他人に触ることでさえ思わずはばかってしまうほどの、深い悲しみの闇。互いを愛する心でさえも繋げることができずに、涙の粒に閉じ込めてしまっている。太一ならそれが嫌というほどよくわかると思う。なぜなら彼もまた、孤独の辛さを知っているから。「たれをかも」という孤独の札を、ずっと心の中に宿しているから。

太一はまだ、周防からもらったものを返せていない。「強さ」をくれた周防に、感謝を伝えきれていない。もし彼の「役割」があるとするならば、それは周防のためになんらかの行動を起こし、彼からもらったものを返すことではないかと思う。兼子の想いを周防に届けること。周防にひとかどの人間になる喜びを知ってもらうこと。そして故郷へ帰りたいと彼に素直に思ってもらうこと。太一が名人戦に進む力があれば一番よかったのかもしれないが、こればかりはどうしようもない。今自分ができることを考え続けるしかない。周防に変わってもらうにはどうすればよいのか。そしてそのためには…

奏の進路変更やテレビで見た千早の意気込みに触発され、太一は自分の役割というものをぐるぐると頭の中で逡巡し続ける。彼はいったいどのような答えを導き出すのだろうか。(詩暢・新・千早については次週アップ予定です)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。5日はとうとうリアルでの名人クイーン戦です。実を言いますとすべての抽選に外れておりまして、あまりの運の悪さにトホホと涙に暮れていたのですが、Hさまのご厚意により二回戦と三回戦を生で観ることができることになりました\(^o^)/なんとお優しい…Hさま、本当にありがとうございます!そしてなんと、あわらの原画展情報が!?Σ(゚∀゚ノ)ノキャー